生後5~6か月になると、授乳と並行して離乳食が始まります。離乳食の時期は、舌で上顎に食べ物を押しつけて潰したり、食べ物をくわえたりしながら、口唇の機能を発達させていく大切な時期です。
正しい離乳食の食べさせ方を身につけることで、食べ物の間違った飲み込み方の癖や舌の間違った使い方の癖がつかず、その結果、歯並びも悪くなるのを予防できます。
今回は、正しい離乳食のあげ方についてお話しします。
離乳食の開始時期として推奨されている生後5~6か月は、下の前歯の萌出時期とほぼ一致しています。赤ちゃんの成長には個人差があるため、あくまでも月齢は目安と捉えて、赤ちゃんを観察してみることが大事です。赤ちゃんが食べ物に興味を示し始めると誰かが食事をしているのを見て、口元をジーッと見つめたり、口をもぐもぐ動かしたりするようになります。こうした「サイン」が現れたら、離乳食を開始するのにちょうどいい時期です。離乳食の時期は、口唇での食物の取り込み、口唇閉鎖状態での嚥下、食物の舌や歯肉での押し潰し、咀嚼のための基本的な動きを習得します。
歯並びは、外側の唇や頬と、内側の舌のバランスの上に成り立っています。口唇・頬・舌の筋力のバランスがうまく取れていると、本来並ぶべきところに生える傾向がありますが、そのバランスが崩れると歯が倒れたり重なったり、また生えるべき歯がうまく生えてこなかったりします。日々の習慣やちょっとした癖が積み重なることで、口周りの筋力バランスが崩れ、歯の生え方にも影響が出てきます。そのため、離乳食の頃から食べ物の間違った飲み込み方の癖や舌の間違った使い方の癖をつけさせないようにすることが大切です。
離乳食のやりがちな誤った離乳食の与え方として、スプーンを赤ちゃんの口に押し込んでしまったり、スプーンをすくい上げてしまう行為があげられます。自分で食事を取り込む事を覚えさせないと、正しい咀嚼の仕方や、丸飲み等の悪い癖もついてしまい、健やかな成長に繋がらなくなるリスクがあります。
離乳食を食べさせる時は、スプーンを下唇において、赤ちゃんが上唇で挟んで食べるまで待つようにする必要があります。まず、スプーンで赤ちゃんの唇をちょこんとやさしく触れて刺激してあげます。すると赤ちゃんは自然に口を開き、自分から食べ物をくわえにいきます。そこからは自分の唇と舌の力で食べ物をのどに運び、ごくんと飲み込みます。口腔機能を育てるためには時間をかけて自分の力で食べることが必要なので、あせらずゆっくりと見守りましょう。
赤ちゃんのタイミングを待たずにスプーンを口腔内に押し込んで食べさせてしまうと、正しい摂食嚥下の機能を習得することができず、低位舌(舌が正常な位置よりも低い位置にある状態)や口唇閉鎖不全(安静時に口唇が開いている状態)になり、下顎前突(受け口)など不正咬合の原因になることがあります。
正しい離乳食のあげ方は、スプーンを下唇に当てて、上唇が下りてくるのを確認し、スプーンを上唇に当てて水平に引き抜くことです。それにより、上唇の筋力がつきます。その時に薄いスプーンを使うと赤ちゃんの唇がキュッと閉じやすくなります。唇をキュッと閉じて噛んだり飲み込むことで、舌・顎などのお口周りの筋肉の発達につながります。食べさせやすいからといって、上あごですり切るようにスプーンをすくい上げてしまうと、赤ちゃんが自分で唇を閉じてスプーンを挟むことができなくなってお口の周りの成長を妨げてしまうので注意しましょう。
【離乳食の固さの目安】
離乳食が固すぎたり、一口量が大きすぎたりすると、舌や口蓋、歯ぐきを使った食物のすりつぶしを行うことができず、丸呑みや水分による流し込み食べになってしまいます。その結果、異常な嚥下癖などの悪習癖につながり、不正咬合の原因になることがあります。食材をお茶や水で流し込んでいる場合は、お茶や水は食後に飲ませるようにするなどの工夫をしましょう。赤ちゃんがお口の筋肉を使って食べやすいように、一回のスプーンにのせる量は、スプーンの1/3~1/2程度にしましょう。
離乳食の頃から、正しい姿勢をとる事で頭部が安定し、しっかりと噛めるようになります。食べるときの姿勢は歯並びや咬み合わせに大きく影響します。間違った姿勢で食事をすると体が歪んだ状態であごを使うために、あごの成長や歯並びに影響が出てしまうことがあります。体が極端に前に倒れていたり、後ろに傾いているとあごに角度がつき、正しいかみ合わせにならなかったり、飲み込みがうまくいかなくなったりしてしまいます。
【離乳食を食べる正しい姿勢】
上記の中でも足の裏がしっかりつく、足置きがついていることはとても重要です。足がぶらぶらしているとあごに力が入らず、噛む力が低下することがわかっています。離乳食を食べるときの椅子には必ず足置きのあるものを選ぶようにしましょう。
離乳食のあげ方が歯並びに与える影響は大きいです。適切な離乳食の進め方を行うことで、健康な歯並びをサポートすることができます。
離乳食をあげるときは、保護者の方は赤ちゃんの口腔機能を育ててあげられるようにサポートしてあげることが大切です。赤ちゃんが自分の力で食べられるようにゆっくりと見守りましょう。
もちろん離乳食の進み方には個人差があり、赤ちゃんの成長や体調によって、食べるペースも変わってきます。「5か月になったから」「歯が生えてきたから」と言って焦らず、赤ちゃんのペースに合わせて楽しく進めてあげましょう。
記事監修 Dr.中野 純嗣
なかの歯科クリニック
院長 中野 純嗣