歯周病と聞くと大人がなるものというイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか?実は、歯周病は大人だけでなく子供もなる可能性があります。子供の歯周病は通常、歯周病の初期段階である歯肉炎が多いですが、適切な口腔衛生が行われていない場合、この状態が悪化して歯周病(歯周炎)に進行することがあります。
歯周病(ししゅうびょう)は、歯を支える組織に影響を与える炎症性の疾患です。主にプラークとその中の細菌が原因で発生し、歯肉炎(歯ぐきの炎症)から始まります。進行すると、歯を支える骨が徐々に失われ、最悪の場合、歯が抜け落ちることのある病気です。2018年に全国2,345の歯科医院で行われた「全国抜歯原因調査結果」でも歯周病は、歯を失う原因の一位となっています。
【歯周病の進行】
歯周病には、大きく分けて歯ぐきが炎症をおこす「歯肉炎」と、それが進んで土台である歯周組織が破壊されてしまう「歯周炎」の2段階あります。歯周炎にもレベルがあり、軽度・中等度・重度と段々と症状が重くなっていきます。
厚生労働省の「歯科疾患実態調査」によると、小・中学生の4割が歯周病の初期段階である「歯肉炎」にかかっていると報告されています。子どもは、進行した歯周病である歯周炎よりも、歯周病の初期段階である歯肉炎にかかりやすい傾向にあります。子供のうちは歯肉炎から歯周病へと悪化することはごく稀ですが、歯肉炎になってしまった子供の場合、そのままのケアを続けていると永久歯に影響を及ぼすだけでなく、将来歯周病になってしまうリスクが非常に高くなります。
早期発見と治療が、長期的な健康を守る鍵となります。以下の歯周病のサインはありませんか?お子さまの、お口の状態をチェックしてみてください。
永久歯の奥歯が生えてくるときによくみられる歯肉炎です。この炎症は一時的なもので、歯が生えるに従っておさまる場合がほとんどです。第一大臼歯(6歳臼歯)が生えてくる6~7歳ごろ、第二大臼歯(12歳臼歯)が生えてくる12歳頃によくみられる症状のため、この時期には、保護者の方は仕上げ磨きをより強化してあげてください。
不潔性歯肉炎とは、歯磨きが不十分でプラーク(歯垢)が溜まってしまい歯茎に炎症が起きることで発症する歯肉炎です。歯が十分に磨けていないことでお口の中の細菌が増加してしまい、歯茎に傷が作られた際に、そこから感染するケースが多いです。子供の歯肉炎で最も多いのがこの歯肉炎です。子供の場合は歯磨きの力加減がわからず歯茎を傷つけることもあり、その傷から発症することがあるので力加減には注意が必要です。また、口呼吸の癖がある場合は、口が乾燥して唾液の分泌が減り、歯垢が溜まりやすいので歯肉炎が治りにくいです。
思春期性歯肉炎は、主に小学校高学年から中学生(10~15歳ごろ)に見られる歯肉炎です。思春期性歯肉炎は、女性ホルモンのバランスが崩れて起こる歯肉炎で男子より女子に起こりやすい傾向がみられます。思春期はホルモンバランスの乱れや生活の変化により、歯ぐきの腫れや出血などの歯肉炎が起きやすい時期でもあります。
普通は歯を綺麗に磨いていれば歯茎が腫れることはあまりないのですが、思春期性歯肉炎は、綺麗に歯を磨いても起こり得る歯肉炎です。予防のためには毎日の歯磨きでしっかりプラーク(歯垢)を落としつつ、栄養バランスのとれた食事や生活習慣を整えることで、ホルモンバランスを安定させることが大切です。
若年性歯周炎は、「侵襲性(しんしゅうせい)歯周炎」とも言われる歯周病です。10~20代の若年層に生じる歯周炎で、一般的に言われる歯周病は、比較的ゆっくり進行するものですが、若年性歯周炎は、急速に進行するタイプの歯周病のため早期の積極的な治療が求められます。プラークの付着量が少なく、全身的に健康であるにも関らず、歯を支えている骨が吸収されることにより歯周ポケットが深くなったり歯が移動したりします。プラークの付着量とは関係なく病態が進行していくことから、難治性の歯周病としても知られています。
歯垢(プラーク)は歯周病の主要な原因であり、歯周病菌は、歯に付着した歯垢(プラーク)の中で増殖します。不十分なブラッシングが、プラークの増加を招き、歯茎の炎症を引き起こします。そのため、歯周病予防にはプラークコントロールが非常に重要です。プラークコントロールには、毎日の歯磨き、フロスを使用した歯間の清掃、定期的な歯科検診とクリーニングが含まれます。これらの習慣は、歯肉の健康を保ち、歯周病のリスクを減らすのに役立ちます。
また、プラークコントロールにおいて食生活も重要な役割を果たします。糖分が多い食品や飲料はプラークの形成を促進するため、糖分の過剰摂取は控えましょう。ビタミンA、C、Dおよびカルシウムを含む食品は、歯と歯肉の健康をサポートします。毎日の3食でバランスの取れた食事をとることを意識しましょう。
歯周病の原因菌は唾液を介してうつることから、食べ物の噛み与え以外に、キスや箸・スプーンの共用などにより、歯周病菌を相手にうつしてしまう恐れがあります。生まれたばかりの赤ちゃんの口の中に歯周病菌はありませんが、母親や家族からの感染で歯周病菌がうつることが知られています。しかし、歯周病の原因は、いくつもの細菌が集まってできたプラークであるため、きちんとプラークコントロールを行っていれば、発症リスクも抑えられます。
家族全員が正しい感染の知識を持ち、各々が自分自身の口腔を清潔に保つということが、お子さまのお口の安全につながります。お子さまのケアと一緒にご自身の口腔ケアも積極的に取り組みましょう。
「子供も歯周病になるって本当ですか?」という疑問に対しての答えは「本当」です。保護者の方の積極的なサポートと適切なケアが、お子さまの健康な口腔状態を守るために不可欠です。「ハミガキの時に出血していないか」「口臭がないか」「歯茎が赤く腫れていないか」など、仕上げ磨きの際にコミュニケーションをとりながら日常的に確認するようにしましましょう。
歯周病の中にはプラークの付着量が少なく、全身的に健康であるにも関らずなってしまうものもあります。少しでもお子さまの口の状態で気になるところがあれば、早めにかかりつけの歯科医院を受診しましょう。重症化してしまう前の早期発見・治療が大切です。
記事監修 Dr.中野 純嗣
なかの歯科クリニック
院長 中野 純嗣